[わたがしメロディ]




 昨日は雨が降っていたけど、今日はそれが嘘みたいに晴れている。
 そのせいで昨日はあまり外には出ないで、都会のデパートで買い物とかばかりに僕は付いて回っていた。別にそれは不満なんかじゃないけどね。笑っている顔を見ていたら僕も自然と笑顔になるから。
 旅の中で必要な食糧は勿論、僕等が傷付いたときに使ってくれる傷薬も、たくさん買ったな。その後は屋上でジュースも飲んだし。それがすごくおいしかった。ミックスオレっていうらしいんだけど、僕はあれが一番好き。
 今日は柔らかい太陽の下、公園の中で休憩中。隣ではペルシアンとその主人のおねーさんがベンチに座っている。
 ぽかぽかとした温かい日で、僕の身体は眠気に包まれてきた。太陽の温もりと涼しい風がこらぼれーしょんしていて、もう、なんというか、気持ちいいんだ。
 いや、それだけが原因じゃない。

 僕の主人、ケイはワカバタウンという町から来た女の子。彼女の持っているぽけぎあというやつから、何やら心地よい音楽が流れてきている。
 それのせいだ。眠気が一段と瞼を重くして、でもケイがいつ歩き始めるかどうかわからないし、でも眠いし、ああ、やっぱり眠い。
 寝ちゃおっかな……眠いときには寝た方がいいよね。
 蒼い空の向こうに何かが吸いこまれていく。耳のずっと遠くの方で木の葉が歌っていた。
 彼方で、ゆったりとしたメロディーラインが浮かんでいる。僕はそっと瞼を閉じる。
 夢の中でもケイと会いたいなー。
 ケイのこと、だいすきだから。


 ♪


「レンネ」

 聞き慣れた声が何よりも近くで聞こえて、僕は跳び起きた。驚いたようにケイは目を丸くした。
 寝ててよかったのにー。そう言って笑ってみせた。白い歯が見えている。いつの間にかいつも頭に被っている白い帽子を取っている。
 僕は少し首を傾げた。ケイはベンチに座っている為に下から僕を見上げている。いつもは少しだけ、ケイの方が高い。
 メリープのころから随分大きくなったけれど、結局越すことは叶いそうにない。ケイはまだ伸びているんだから。僕はもう伸びたとしても数ミリ程度だろう。
 だけど今だけは見下ろしている。こうしていると、ケイを守ってあげているような気になる。
 守ってあげたいっていつも思っている。

「いつごろ行こうか。けっこう休んだけど」

 ケイは呟くように言う。膝に肘を載せて頬杖をつき、うーんと声を唸らせる。
 まだ頭の中が夢の中にいるようにぼーっとしている。でも、この雲みたいな感覚が僕は好きだった。
 いつの間にか少しだけ太陽は傾いていて、どことなく夕方へと風景が歩みを進めている。隣にいたペルシアンとおねーさんはどこかに去っていってしまったようだ。
 お昼ごはんを食べた後にはまだあった小さな水たまりは無くなっている。僕が寝ている間に、なんだか色々と変わっていた。
 どのくらい寝ていたんだろう。どんな夢を見ていたんだっけ。
 でも、なんだかとても幸せな夢だったようなきがするな。


「……ねぇっ君トレーナー?」

 僕はその声に顔をあげる。ケイもそれとほぼ同時に声の主を見る。
 そこにいたのは、大きな麦わら帽子を被って虫取り網を持った少年だった。ケイよりも少し年下のような気がする。きっとそう。
 ケイはにっこりと笑ってそうだよ、と言った。

「やっぱり! ねえ、バトルしようよ!」

 幼い声が公園に広がる。その声に反応して、周りにちらほらといた人達がこちらを向く。
 僕はケイを見る。ケイも僕を見上げている。僕に何かを黙って語りかけてきているようだった。
 どうする?
 そう聞いてきている気がする。
 だから、僕はゆっくりと頷いた。それを見るとケイは満面の笑みを浮かべて、ベンチから立ち上がり手に持っていたポケギアのラジオを切った。ベンチに置いていた白い帽子を手にとって、しっかりと被る。

「じゃあ、やろうか!」

 少年は白い歯を見せて元気良く頭を縦に振った。そして公園の少し広い所へと走っていく。ケイもそれに続く。
 僕は少し急ぎながらも、けれどゆったりとケイの後を追う。
 少年は持っていた虫取り籠の中に手を入れる。その中に三つほどモンスターボールが入っていた。そのうちの一つを取りだす。

「僕はリョウタっ君は?」
「ケイだよ! レンネ、一番手よろしくね」

 後ろにいた僕にケイは声をかける。急に僕の中に元気が湧き上がってきた。先程までの眠気はどこかに跳んでいって消えた。
 身体中に力が巡る。いつでも電気は放つ事ができそうだ。僕はにっと笑ってみせる。
 ケイの前に足を踏み出す。戦う時だけは、僕はケイの前にいることができる。ケイの姿が見えなくなるけど不安は無い。ケイが僕の背中を見ていてくれるから。
 少年はボールを上に投げる。その途中でボールは開き、中からポケモンが飛び出す。蝶のような姿の彼は、バタフリーだ。
 なんだか心が躍ってきた。戦いが始まる。僕はこの度に走って避けて電気を出して傷付く。けれど僕にとって、いや、きっと世界中の僕等は皆それを生きがいとしている。
 そうじゃなければ、こんなにどきどきしない。

「先手必勝っレンネ、放電!」



 今日も、僕等は笑っているよ。







fin.




 POKENOVELの企画にて書かせていただきました。  御題が「自分の手持ち達を使用した妄想SS」で、難しいかなって思ったけど書いてみれば案外すらっと書けました。
 HGの私の女主ケイとそのポケモンのデンリュウのレンネの話です。ちなみに性格は呑気で抜け目がないなんですけど、抜け目が無いは完全にシャットアウト(苦笑)
 ふんわりとした感じを出したかったです。でもなんというか、これ誰得……。
 ちなみにケイは本名じゃないよさすがに。